+10万ヒット記念企画「夏」+


5.まとめ編


















「やっと見つけた…!」
「きゃ!?ちょ、え………ディアッカ!?」
「自分で手伝えって言っといて、その反応はないでしょーよ」

賑わう風景を写真におさめるべくレンズを覗いていたミリアリアは、急に背後から肩を叩かれて驚いた。
そして振り返ってみれば、まさかここにいると思わなかった人物がいたのだから、なおのことだ。
浅黒い肌に金色の髪、紫の瞳はやや呆れたような表情を浮かべている。
以前に会ったときよりも、少し背が伸びただろうか。

「………手伝えなんて言ってないわよ。何の用もなく来ないで、って言っただけ」
「ただ遊びに来るぐらいなら、仕事手伝いなさいよねってメールに書いてたじゃん」
「だからって本当に来るなんて、あんた馬鹿?」
「はいはい、馬鹿で結構。んで?俺は何を手伝えばいい」
「え……」
「何だよ、その反応」
「………本当に手伝う気?」
「じゃなかったら声かけないって」

肩をすくめる仕草は以前と変わらない。
何気に気苦労の絶えない彼は、よくこうしていることが多い。
以前は皮肉屋だったそうだが、いつから路線を変更せざるをえなかったのか、いまでは割かし常識人の方に分類されるであろう青年。
落ち着きというか飄々とした部分が増したように思える彼に、ミリアリアは眉を寄せた。

「…わざわざ祭りに来て仕事手伝うとか、物好きね」
「いや、俺としてはこっちの方がまだマシ」
「は?」
「あっちの騒ぎに巻き込まれたくねえの」
「あっち……?」

ディアッカが顎で指し示した方向へ視線を移動させると、確かに賑やかな場所が。
なんだろう、と耳をすませてみれば、ぎゃあぎゃあと喧騒が聞こえてくる。

…なんとなく聞き覚えのある声ばかりだ。

「………また?」
「そ、また。あいつらの勝負には付き合いきれねえよ」
「祭りの醍醐味じゃない」
「年がら年中やってて醍醐味も何も…」
「じゃあ、勝負の行方を撮影に行こうかな」
「おいおい、勘弁してくれよ…はぁ」

がっくりと肩を落とすディアッカに、ミリアリアはくすくすと笑う。

あ、やっぱり笑った顔は可愛い。
いつも怒ったような表情や、不機嫌そうな顔しか見られないからこれはレアだ。

そんなことを考えていると知られたら張り倒されそうなため、黙っておくが。














「アスラン今夜こそ決着をつけるぞ!!」

びしいっと腰に手をあてて指差すイザークは、闘志にアイスブルーの瞳をめらめらと燃やす。
心なしか、さらさらの銀髪が燃え上がる闘気に揺れているようにも見えた。
そして対するアスランはといえば、遠慮なく面倒臭そうな表情を浮かべて腕を組んでいる。
後ろでは負けんなよー!と無責任に応援するカガリがいるわけだが。

いまにも勝負のゴングが鳴りそうな状況に、離れた位置でラスティとニコルが目を輝かせて見守る。
その傍でミゲルはラムネという飲み物を興味深そうに眺めて口をつけていた。

「イザークも飽きませんよね」
「ま、そこがイザークだろ。ミゲルそれ俺もちょーだい」
「あ、こらラスティ。だから俺のものをとるのはやめろって言ってるだろ」
「だって他人が飲んでたり食べてるのって、うまそう」
「あぁ、それ分かります」
「このガラス玉、どうやって取るんだろ」
「…普通に取るのは無理じゃないか?口の広さ的に」
「ええー」
「お前らは勝負の邪魔をするなあぁっ!!!」

物凄い形相で睨みつけてくるイザークに、どうぞ気にせずとニコルが微笑む。
イザークのこの怒声も、クルーゼ隊どころかアカデミーの頃から一緒のメンバーは慣れっこで、むしろ日常のBGMと化している節がある。あぁ、これ聞くと懐かしいよなぁ…という。ディアッカやミゲルは、若干疲れるようだけれど。

アスランとイザークの睨み合いを傍観していたキラが、ミゲルたちの方へ寄ってきた。

「そのラムネ、瓶を割らないとビー玉は取れないよ」
「あ、これそういう名前なのか。割っちゃっていいもん?」
「んー…家に帰ってからの方がいいかな。破片が散ると危ないし」
「ラスティ、そんなにビー玉ほしいんですか?」
「や、なんか手に入らないと思うとほしくならねえ?」
「お前は本当にガキだな」
「ミゲルはおっさんだよなー」
「おい!?」
「ラスティ、ミゲルだってまだ若いですよ」
「………お前に言われると複雑だなニコル」
「え、そうですか?」

会話がぽんぽんと続いていく面々に、キラは穏やかに微笑む。
そうしているとピンクの髪を揺らしてラクスが戻ってきた。

「ラクス、子供たちは?」
「マリューさんたちが邸まで送り届けてくださるそうですわ。ふふ、皆はしゃぎすぎて眠くなってしまったみたい」
「昨日から大騒ぎだったもんね」
「はい。後片付けの人数が減ってしまいましたけれど…」
「あぁ、それはアスランたちに手伝ってもらえばいいんじゃない?」
「あら、よろしいんですの?」
「大丈夫だと思うよ。イザークは進んでやってくれそうだし、カガリも協力してくれるだろうから」

イザークがやると言い出した場合、シホはもちろんのことミゲルたちだって巻き込まれることになるだろう。カガリが片付けに参加するとなれば、護衛のアスランが立ち会わないはずはないし。
そうなると最低でも男五人、ディアッカも含めれば六人の人員が確保できる。それも皆コーディネイターだ、増援としてはこれ以上ないほどの人材である。

その会話を聞いていたミゲルは、どんよりと影を背負ってしゃがみ込む。
先輩の肩を、ラスティとニコルがぽんぽんと叩くが、何の慰めにもなっていないだろう。

「………キラってヤツさ、可愛い顔してえげつないよな」
「あはは、そこはニコルと似てるよなー」
「やだな、僕はそんなんじゃないですよ」
「わざわざ地球まで来て片付けかよ…。他に誰か巻き込めそうなヤツ……お」
「ん?どしたミゲル。お?何か見覚えあるのが…」

ミゲルとラスティの視線の先をなんとはなしに追ったキラは、紫苑の瞳を瞬いた。

「シン?ルナマリアも」
「こんばんは!お邪魔しに来ちゃいました」
「いらっしゃいませ。お二人のお顔が見られて、嬉しいですわ」
「…どうも」
「シンも来てたんだね。ヨーヨー釣りやってく?…って言っても、いま白熱しちゃってそれどころじゃないんだけど」
「………あのひとたち何やってんすか」

浴衣姿で店に顔を出したシンとルナマリアは、仲良く手を繋いでいる。
きっと当人たち無意識なんだろうな、と思ってキラはそこには触れないでおいて。恐らく触れてしまった場合、真っ赤な顔してシンは振りほどきそうな気がしたので。

呆れた表情でシンが見つめる先では、アスランとイザークの凄まじい攻防が繰り広げられていた。
大人げない二人に、シホとカガリがそれぞれ声援を送っている。
そしてラスティやミゲルは野次にも近い茶々を入れ、イザークを怒らせていた。
そうやっていちいち反応するから、集中力が乱れるんじゃないかなぁと思うのだが。

「元クルーゼ隊が集まるとよく見られる風景」
「へえ、あれが噂のクルーゼ隊」
「あ、でもディアッカがいないや」
「ふふ、彼がいないと完全なクルーゼ隊とは言えませんものね」
「そうなんですか?」
「縁の下の力持ち、って感じ」

俺はもう限界だ、と何度聞いたか知れないけれど。
あそこまでマイペースな集団をフォローできるのはディアッカぐらいだろう。

その言葉にラスティとミゲルが大変だよなーとうんうん頷く。
自分たちはフォローする気がない、といった様子にキラは苦笑してしまった。
ミゲルは、かなりの高確率で不憫なことになっているという話ではあるが。

これがザフトのトップガン…と微妙にブルーになるシンに、ラスティとミゲルが肩を叩く。

「え?」
「んじゃ、お前も片付け参加決定な」
「…は」
「俺らも参加するんだ、後輩が逃げるのは許さん」
「ちょ、何の話ですか!?」
「わあ、シンも手伝ってくれるの?ありがとう」
「………キラさん、その笑顔はわざとですか、わざとですよね!」
「シン、頑張って」
「何で自分だけ傍観者なんだよルナ!」
「私はラクス様と差し入れの何かを作っておくから」
「楽しみにしていて下さいませね」
「…知らないうちに密約が交わされてる…!?」
「シン、諦めて協力して。………女の子には勝てないから」
「………そんな真面目な顔して悲しくないですか、キラさん」
「その域はとっくに越えた」

あ、越えちゃったんだ。

そう思ったシンは、これ以上抵抗する気も失せてしまい、溜め息を吐く。
このメンバーが集まった時点で、ろくでもないことになるのは決定だったのだ。
ならばさっさと諦めて、早く仕事をこなそう。それが一番疲れない。

だんだんと達観の域に入る少年に、ミゲルが同情するような視線を向けていた。
























NEXT⇒